頭の中身を、直接殴られたような痛みで目が覚めた。

「っ、あ・・・」

すぐに状況が把握できない。

汗でぐっしょりと濡れた体。

纏わりつくシーツに、体中が引き攣れる。

痛む頭が、湿った枕に埋もれて気持ちが悪い。

ここ・・・

どこ？

「花月？」

「・・・っ！」

竦んだ体に大きな男の手が掛かり､上げかけた悲鳴が喉の奥で詰まって消えた。

息ができない。

苦しい。

「落ち着け､花月。少しづつ息を吐け。大丈夫だ､息はできる」

急に体を持ち上げられ、頭がぐらぐらと痛んだが、丸めた背を撫でられて、なだめる声が誰のものか気がついて、詰まった息がやっと喉から洩れた。

「は、ぁ・・・・」

滲んだ涙が､汗に紛れて消える。

「花月・・・」

そのまま、緩く抱きしめてくれる腕に、あそこから帰ってこられたのだと、今更ながら理解した。

乾いた唇に、冷たいグラスがあてがわれて、喉に水が落ちていく。

筒に水を注がれるように、実感がない。

「包帯と寝巻きを換えるぞ。少し､起きていられるか？」

汗に張り付いた髪を払い､十兵衛が覗き込むが、視界が暗すぎて、見えない。

「・・・・・」

答えを待たず、剥がされたシャツの下で､外気に触れた肌がすうっと冷えた。

「雷帝が見舞いに来たぞ」

汗を拭かれ､早くも治りかけている傷を拭われながら聞いた十兵衛の言葉に、花月はやっと顔を上げた。

針を打ってもらったせいか､頭痛はだいぶ治まっている。

十兵衛の顔も､見えた。

「怒って・・なかった？」

「いや。心配していた」

十兵衛の声。

ああ。

「怒ってるのは､君だね」

「そうだ」

十兵衛の硬い指が､包帯を巻く。

「ごめん・・・・」

「貴様を守れなければ、俺の生きる意味がない。頼む、俺をおいて行くな」

「・・・・」

そんな十兵衛だから、花月は素直にうんと言えない。

腿の内側に､明らかに指で抉られた跡。その上にも、淀みなくガーゼを当てる硬い指。

十兵衛は、また自分を責めるだろう。

花月のために怒って・・・それで。

それで・・・

十兵衛の手のひらがあたたかい。

皮膚に触れた熱が、じんわりと体の芯まで届いて、花月の体の震えを止めた。

止まってはじめて､ずっと自分が震えていたことに気がついた。

これじゃぁ、十兵衛も銀次さんも心配するはずだ。

ほっと力が抜けて､回復期の体が眠りに落ちそうになる。

「・・・シーツを換えるまで待っていられないか？」

「うん、だいじょうぶ・・・そうだ、十兵衛」

「なんだ？」

洗いたてのシーツが、眠気にほてった肌に気持ちがいい。

「あ、枕いらない。貧血っぽいから・・・銀次さんが来たら､起こしてくれないかな。謝りたいし」

「雷帝が起こすなと言えば起こさないぞ」

「なんでそんな時だけ忠実に・・・」

掛けられたタオルケットも新しい。十兵衛が髪を撫でてくれて､眠気が加速する。

「それから、さ」

眠ってしまう前に。

「キスして」

しっとりと触れた優しい唇に満足して､花月は素直に意識を手放した。

怖い夢は､見なくて済みそうだった。

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